死にたいわけではなかったのかもしれない

数日前、気心知れた友人たちとの楽しい旅行から帰ってきた。楽しかったはずなのに、僕は無茶なODをした。

 

僕は向精神薬がなくては眠れない。今日はちょっと昼寝しようかな、と言って好きな時間に寝付くことができない。

時間が重たかった。朝起きてから夜眠るまで、時間が過ぎるのが遅くて遅くて苦痛だった。意識がなければ時間が勝手に過ぎる。眠りたい一心で市販の鎮痛薬を過去にない量飲んだ。

 

まあ眠れはした。飲んでから1時間少々で眠りに就いたと思う。そこから9時間後、19時に猛烈な吐き気で目が覚めた。そこから吐き続けた。吐くものがなくなって苦しかったので水を飲んでまた吐いた。薬が抜ければ吐き気も治まるだろうと思ってそのまま徹夜して吐き続けたが何も良くならない。心細くなってきたが、独り暮らしではどうしようもない。昼になった。まだ吐き続けた。日が暮れた。まだ吐き続けた。

吐き気はつらいが、それよりも動悸が苦しくなってきた。ああこれは水分も摂れていないし胃液を吐き続けているから電解質に異常をきたしたなということはわかった。ナトリウムやカリウムを摂るべきなのは理解したが、あいにく家には塩すら無い。スポーツドリンクなど無い。外に買いに行ける体調ではない。詰んでいた。

そのまま死んでいればよかったのかもしれないが(現に2か月前の1月、僕は希死念慮から自分を守れなくなったので1か月精神科の閉鎖病棟に入院していた)、この時は「苦しい、助けてほしい」という思いが何よりも大きかった。普段は口癖のように「死にたいなあ」と言っているのに、この時は「このまま死にたい」とはなぜか思わなかった。

ODなんていう自傷行為をしておきながらすることではない、申し訳ない、こんな自分は許せないから誰か罰してくれ、と思いながら救急車を呼んだ。

 

1月に入院していた病院の救命救急センターの医師は、全く怒った態度をみせなかった。自傷だというのに。心の中では怒っていたかもしれないが、僕にそれをあらわにすることはなかった。即点滴を入れ、血液検査をし、「低ナト、低カリ、低クロール!」と言いながら電解質補正をしてくださった。夜中の23時にわざわざ当直の精神科の医師を呼んでくださった。精神科医は「死にたかった?」と僕に聞き、僕は逡巡しながら「いや、眠りたかっただけです」と答えた。実際、助けてほしいと自ら救急車を呼んだわけだし、単純に死にたかったわけではなかったのだと思う。時間が重たくて苦しかった、だから眠りたくて薬を飲んだ、それが行き過ぎた、それだけだった。精神科医はその後1時間ほど話をし、取り敢えず僕にこれ以上の自傷行為の意図がないことを丁寧に確認して帰っていった。

 

今回のODは死にたかったわけではないんだなと思って、自分が毎日のようにぼんやりと死にたいなあと思っているはずなのに、いざ少し死に近付くとそれを避けて歩いてしまうことに気付き、結局僕はなんなんだろうと思った。死にたいのか、生きたいのか、自分で自分がわからなくなった。